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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)42号 判決

主文

特許庁が昭和五〇年審判第八七三一号事件について昭和六〇年二月一五日にした審決を取り消す。

訴訟費用及び原告補助参加人らの参加によって生じた費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文第一項同旨の判決及び「訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告(旧商号 株式会社敷島チップトン)は、名称を「高速旋回式バレル研磨法」とする特許第七五九〇〇四号発明(昭和三七年五月一九日特許出願、昭和四〇年八月二七日出願公告、昭和五〇年二月二八日設定登録―なお、その後願書に添附した明細書の訂正をすることについての審判請求に基づいて、訂正を認める旨の審判が確定した―以下この発明を「本件発明」といい、この特許を「本件特許」という。)の特許権者であるが、昭和五〇年一〇月七日、原告は、被告を被請求人として本件特許の無効審判を請求し、昭和五〇年審判第八七三一号事件として審理された結果、昭和五四年四月一六日本件特許を無効とする旨の審決(以下「前審決」という。)があり、これに対し、被告は、右審決取消請求の訴えを提起し、当庁昭和五四年(行ケ)第八七号事件として審理されたところ、昭和五八年六月二三日右審決を取り消す旨の判決(以下「前判決」という。)が言い渡され、右判決は当時確定した。

そこで、特許庁審判官は、前記審判事件について更に審理を行った結果、昭和六〇年二月一五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月二七日原告に送達された。

二  本件発明の要旨

本文並に図面に詳述するように内面が六角又は八角の正多角柱状のバレルの複数個を、主軸を中心とする旋回軌道上の対称位置に等間隔で、バレル又はバレルケースの両端の縦軸を上記の主軸に平行に配置してバレルの各点が常に同方向を維持しながら、即ち空間に対して自転することなく主軸を中心としてマスに有効な遠心力が働くような高速度で旋回するように駆動して、遠心効果をバレル内装入物に与え、同時にバレル内の空間と接するバレル内装入物の上層部のみを循環流動させ、この流動層を流動する遊離工作物と研磨材を常時不離の接触状態に保ちつつ工作物の全量を均等不断にタンブリングなき摩擦を行って表面研磨をする高速旋回式バレル研磨法。

(別紙図面(一)参照)

三  本件審決の理由の要点

1  本件発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  これに対して、請求人(原告)及び参加人(福元産業株式会社)は、

(一) 本件発明は、その出願前に日本国内において公然実施されたものであり、特許法第二九条第一項第二号に該当するから、本件特許は、同条同項の規定に違反してされた(理由(一))。

(二) 本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載されたものであって同法第二九条第一項第三号に該当するか、あるいはこのものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、同条第一項、あるいは同条第二項の規定に違反してされた(理由(二))。

(三) 本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)は特許法第三六条第五項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた(理由(三))。

の三つの無効理由を挙げて、本件特許を無効にすべきであると主張しているものと認める。

3  以下、各理由について検討する。

(一) 前記理由(一)について(省略)

(二) 前記理由(二)について

請求人が、その理由として主張するところは次の三点にあるものと解される。

(1) 本件発明の願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後にした補正(昭和四九年五月二四日付け手続補正書による補正)は、特許法第一五九条第二項において準用する同法第六四条の規定に違反しているもので違法であるから、その効力はなく、その補正がされなかった特許出願について特許がされたものとみなすべきであり、そうすれば、本件発明は甲第二号証(本項における書証番号は審判手続における書証番号を示す。)刊行物(米国特許第二、五六一、〇三七号明細書、以下「第二引用例」という。別紙図面(三)参照)記載のもの又は甲第三号証刊行物(米国特許第三、〇一三、三六五号明細書、以下「第三引用例」という。別紙図面(四)参照)記載のものと同一であるか、あるいはこのものから当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 前記補正が同法第六四条の規定に違反しているものでないと認められた場合においても、本件発明は第二引用例記載のもの又は第三引用例記載のものと同一であるか、あるいはこのものから当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 本件発明は、甲第一号証刊行物(名古屋工業技術試験所報告第七巻第四号第二九一頁、第二九二頁)、甲第四号証刊行物(英国特許第六三三、二五八号明細書)、甲第六号証刊行物(松永正久編「バレル仕上法」昭和三四年四月三〇日株式会社誠文堂新光社発行)、甲第一三号証刊行物(米国特許第一、四九一、六〇一号明細書、以下「第一引用例」という。別紙図面(二)参照)、甲第一四号証刊行物(名古屋工業技術試験所報告第七巻第八号第六一二頁~第六一六頁)、甲第一五号証刊行物(同試験所報告第一〇巻第一二号第七五七頁、第七六七頁、第七六八頁、第七七三頁、第七七四頁)、甲第一六号証刊行物(スイス国特許第五四、五四〇号明細書)、甲第一七号証刊行物(米国特許第二、九三七、八一四号明細書)に記載された技術内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そこで、前記(1)ないし(3)について検討する。

(1)について(省略)

(2)について

第二引用例記載のものは内面が正四角柱状のバレルによる旋回研磨作業であって、本件明細書において、内面が正四角柱状のバレルを用いる旋回式バレル研磨は、本件発明の内面が六角又は八角の正多角柱状のバレルを用いる旋回式バレル研磨法に比べ作用効果が格段に劣ることが明記され、さらに前判決においても、このことが支持されているから、本件発明は第二引用例記載のものと同一であるとはいえないばかりでなく、このものから当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

請求人は、本件発明におけるバレル内のマスの挙動は独得のものでなく、回転式(自動式)バレルにおけるマスの動作と同様のもので公知であり、また、第三引用例記載のものにおけるバレル(ドラム)内のマスの動作とも同様のものであると主張し、その主張事実を立証するために、第二引用例、甲第四号証刊行物、甲第六号証刊行物、第一引用例、甲第二〇号証刊行物(昭和二九年特許出願公告第二五四七号公報)、甲第二一号証刊行物(米国特許第二、三八七、〇九五号明細書)、甲第二二号証刊行物(被請求人((被告))発行カタログ)及び甲第二三号証刊行物(英国特許第四三六、五三四号明細書)を提出し、その上で、本件発明は第三引用例記載のものと同一であるか、又はこのものから当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。

しかし、旋回式バレル研磨法と回転式(自転式)バレル研磨法とは研磨法そのものを異にするし、また、前判決において、本件発明における「バレル内装入物の上層部のみを循環流動させ」という事項は、第三引用例における「a smooth,flowing caterpillar tread-like movement」とは異なった挙動(運動)とされたものであるから、請求人の主張にかかわらず、本件発明におけるバレル内のマスの挙動が、回転式バレル(自転式バレル)におけるマスの動作と同様のものであるとすることはできず、また、第三引用例記載のものにおけるマスの動作と同様のものであるとすることもできない。

ちなみに、請求人の引用した甲号各証についていえば、第二引用例には、前記したとおり、内面が正四角柱状のバレルを用いる旋回式バレル研磨について記載されているが、本件発明の旋回式バレル研磨法に比べ作用効果が格段に劣るものであり、甲第四号証及び甲第六号証の各刊行物には、回転式バレル研磨について記載されているが、本件発明の旋回式バレル研磨法と異なり、第一引用例には内面が六角柱状、円筒柱状又は他の多角柱状のバレルを用いた旋回式タンブリングについて記載されているが、本件発明のマスの上層部のみを循環流動させてタンブリングなき摩擦を行って表面研磨をする旋回式バレル研磨でなく、甲第二〇号証刊行物には、内面が円筒柱形のバレルを用いた転磨機について記載されているが、本件発明の内面が六角又は八角の正多角柱状のバレルを用いた旋回式バレル研磨法と異なり、甲第二一号証刊行物には、バレルの形状が内面円筒柱状のものについて記載されているが、本件発明の内面が六角又は八角の正多角柱状のバレルを用いる旋回式バレル研磨法に比べ作用効果が著しく相違するものであり、甲第二二号証刊行物には、バレル軸を鉛直方向に配置しても、水平方向に配置してもバレル内のマスの挙動に変化のないことが記載されているにすぎず、そして甲第二三号証刊行物には、鉱石片のグラインディングについて記載されているが、本件発明の旋回バレル研磨と異なり、これら甲号各証のいずれも、本件発明における内面が六角又は八角の多角柱状のバレルを用いたマスの挙動を直接記載するところは見当たらないから、前記甲号各証は、本件発明のマスの挙動が回転式バレル研磨におけるマスの動作と同様のものであること、そして第三引用例記載のものにおけるマスの動作と同様であることをそれぞれ立証するための証拠として不適切である。

したがって、本件発明は、第三引用例記載のものと同一でないばかりでなく、このものから当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

(3)について

請求人の引用している甲号各証について検討する。

甲第一号証刊行物には、ボールミルとバレル研磨用研磨材を装入して運動した摩耗試験について、甲第四号証及び甲第六号証の各刊行物には、回転式バレル研磨について、第一引用例には、内面が正六角柱状、円筒状又は他の正多角柱状のバレルを用いた旋回タンブリングについて、甲第一四号証刊行物には、ハイスイングボールミルによる粉砕効果について、甲第一五号証刊行物には、ボールミルに鋼球とバレル研磨剤とを装入して運転した摩耗試験について、甲第一六号証刊行物には、円筒形ドラムを用いた旋回式のミルについて、甲第一七号証刊行物には、ボールクラッシャの部品間の関係についてそれぞれ記載されているが、甲第一号証刊行物記載のものは、前判決において、実質的に旋回式バレル研磨作業でないとされ、甲第四号証及び甲第六号証の各刊行物記載のものは、旋回式バレル研磨ではなく、第一引用例記載のものは、マスの上層部のみを循環流動させてタンブリングなき摩擦を行って表面研磨をする高速旋回式バレル研磨作業でなく、甲第一四号証ないし第一七号証刊行物記載のものは実質的に旋回式バレル研磨作業でない(甲第一五号証刊行物記載のものについては前判決に判示されている。)から、いずれのものも、内面が六角又は八角のバレルを用い、かつバレル内装入物(マス)の上層部のみを循環流動させてタンブリングなき摩擦を行って表面研磨をする高速旋回式バレル研磨という本件発明の必須の要件を具備しない。してみると、前記甲号各証のいずれにも、本件発明の新規性、進歩性を否定するに足る技術が記載されているとは認められない。

したがって、本件発明は、前記甲号各証に記載された技術内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(三) 前記理由(三)について(省略)

4  以上のとおりであるから、請求人及び参加人の主張する理由及び請求人の提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることはできない。

四  本件審決の取消事由

本件発明の後記要件1の装置を用いる同要件3の研磨法は、第一ないし第三引用例記載のものに基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、また、バレル内のマスが後記要件2のとおり挙動することは自然法則による当然の結果にすぎないから、本件発明は右各引用例に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の認定、判断は誤りであり、本件審決は違法として取り消されるべきである。

1  本件発明の要旨は、分説すると、次のとおりである。

「本文並に図面に詳述するように内面が六角又は八角の正多角柱状のバレルの複数個を、主軸を中心とする旋回軌道上の対称位置に等間隔で、バレル又はバレルケースの両端の縦軸を上記の主軸に平行に配置してバレルの各点が常に同方向を維持しながら、即ち空間に対して自転することなく主軸を中心としてマスに有効な遠心力が働くような高速度で旋回するように駆動して、遠心効果をバレル内装入物に与え、」(以下「要件1」という。)

「同時にバレル内の空間と接するバレル内装入物の上層部のみを循環流動させ、この流動層を流動する遊離工作物と研磨材を常時不離の接触状態を保ちつつ工作物の全量を均等不断にタンブリングなき摩擦を行って表面研磨をする」(以下「要件2」という。)

「高速旋回式バレル研磨法」(以下「要件3」という。)

2(一)  本件発明の要件1及び3は以下に詳述する理由により、第一ないし第三引用例記載のものに基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

第二引用例は、工作物の研磨方法及び装置を開示しており、「本発明は種々の物品同士又はこれらと他の固形物とが擦れ合い、研削又は研磨を受けるような場合の機械的作用による右物品の仕上げに関する。」(第一欄第一行ないし第五行)と記載されている。

そして、第二引用例には、研磨に用いる装置として、回転する主軸4の両端にそれぞれ取り付けた十字状スパイダ9の各先端個所すなわち主軸4から等距離を隔てた個所に、それぞれ一個の横断面正方形状のコンテナ(容器)10を、各コンテナ10の両端の回転するシャフト17が主軸4に平行となるよう取り付け、主軸4を中心とする旋回軌道上の対称位置に等間隔に配置したもの(第二欄第三八行ないし第三欄第二六行及び別紙図面(三)Fig1・4参照)が示されている。この装置の操業時における動作について、第二引用例は、「スプロケット(くさり歯車)20及び22を所望のあらゆる比率によって選択することができ、この比率に従って、容器(複数)10は、ソケット(複数)15及びシャフト16、24から成る軸受接続を中心として、シャフト(主軸)4の回転速度に対応する所望の速度で回転(自転)するが、その回転速度はもちろんモータ5とベルト6により連動されるプーリ7及び8のステップにより決定される。かくて、容器は遊星のような動きを与えられ、あらかじめ決められた所望の速度でシャフト(主軸)4の軸を中心に円形軌道上を旋回し、また、あらかじめ選択された所望の速度でシャフト17及び24の軸を中心に回転(自転)する。作業実施により、スプロケットの歯車数比を一対一にすると極めて満足的であることを見いだした。このようにすると、容器10の蓋11は図示のとおり常に頂部に維持され、容器10の運行は観覧車の場合と同様である。」(第三欄第二八行ないし第四七行)と説明している。また、第二引用例は、従来のタンブリング作業(回転式((自転式))バレル研磨)では、工作物の処理に要するエネルギーは重力とマスが落下する速度で定まったが(第一欄第五九行ないし第二欄第一六行)、それでは長時間を要したところ(同欄第二八行ないし第三〇行)、当該発明では重力を所望の大きさの遠心力で置換しており(同欄第三一行ないし第三七行)、主軸4を十分な速度で回転し容器内の物に十分な遠心力を発生させて内容物を容器の壁に押し付ける(第三欄第四八行ないし第六〇行)と説明し、クレイム2にも、重力の効果に打ち勝つ遠心力をもたらす速度でバレルを高速回転させることが記載されている。

以上述べた第二引用例記載の装置及び方法と本件発明の要件1及び3とを比較すると、容器ないしバレルが前者では正四角柱状であるのに対して、後者では正六角柱状又は正八角柱状である点が相違するが、その余の点は両者全く同一である。

(二)  次に、右(一)で述べたバレル形状の相違点についてみると、第二引用例には、「コンテナ10は一般的に四角の上部を開口する箱として示され」(第二欄第五〇行、第五一行)るが、当該発明は、開示された特定の実施例に限られず、他の種々の具体的変形が当業者に容易に想到できるところ、それらも当該発明の範囲に含まれる旨(第四欄第二一行ないし第二九行)記載され、クレイム中では、コンテナの断面形状を正四角形に限定せず、複数の容器とのみ記載されているから、第二引用例は、正四角柱状以外の容器の採用可能性を示唆しているものである。

ところで、本件発明の要旨とする高速旋回式バレル研磨法(以下、この研磨法を「旋回式バレル研磨」又は「旋回式バレル研磨法」という。)は回転式(自転式)バレル研磨の改良であるが、右自転式バレル研磨については、松永正久編「バレル仕上法」(甲第八号証)には、バレルは角柱状又は円筒柱状が一般的であり、中でも「角柱は六ないし八角柱がもっとも多く用いられている」(第一八頁ないし第二〇頁)との説明があり、随所に六角柱状又は八角柱状バレルが示されている(例えば、第二二頁ないし第二七頁、第二九頁、第八四頁ないし第八六頁に掲載の写真)から、六角柱状又は八角柱状バレルが周知慣用であった。

のみならず、第三引用例は、公自転比一対マイナス〇・五の旋回式バレル研磨において円筒柱状バレルを用いる例を示しているが、第三引用例には、「断面円形の円筒状ドラムを使用するのが望ましい。しかし、各種の多角形断面のものを選ぶことができる。」(第二欄第六行ないし第八行)、「ドラム15、15は断面円形として示されているが、各種の多角形断面もまた適当であり、ときにはその方が好ましいことがある。」(第四欄第二四行ないし第二六行)と記載されている。

さらに、第一引用例は、公自転比が一対プラスXの旋回式バレル研磨を示しているが、第一引用例記載のものでは正六角柱状のバレルを用いている。すなわち、第一引用例は、公転軸を中心に対称位置に等間隔に配置した六個のケーシングの両端の自転軸を公転軸に平行に配置し、このケーシング内に被加工物(例えば、財布の金枠)及び研磨材(鋼球)等を装入し、ケーシングに公転と自転を与えて被加工物の研磨を行う旋回式バレル研磨装置及び方法を示し、Fig2(別紙図面(二)参照)には正六角柱状のケーシングを示し、「これらのケーシングは円筒形又は多角形などの適当な断面形状であってよく、六角形が好適なものとして示され」(第二頁第二八行ないし第三四行)と述べている。

そうすると、第二引用例に開示された装置の正四角柱状のバレルを正六角柱状又は正八角柱状のもので置換することは、バレル研磨の技術分野における当業者にとって特段の工夫を要しない単なる形状の変更にすぎず、要件1の装置を用いる要件3の旋回式バレル研磨法は以上の公知技術から容易に想到し得ることである。

3  本件発明の要件2は、第一ないし第三引用例記載のものに基づいて推考容易な本件発明の要件1及び3の構成により旋回式バレル研磨を行うことによる当然の作用である。

本件発明に係る特許審判請求公告公報記載の訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の発明の詳細な説明中には、〈1〉本件発明にいう高速度とは、毎分の公転数が

〈省略〉

(Dはバレルの旋回軌跡径で単位はメートル)を超える速度であり、実施装置では

〈省略〉

毎分内外の範囲が適当である(第二頁右欄第七行ないし第一四行)と記載され、また、〈2〉本件発明の実施態様、特にバレルの旋回に伴うバレル内装入物の挙動につき、「第1図に示す様に(中略)バレル内のマス1′、2′、3′及び4′は何れも強い遠心力で旋回軌道6の外側寄りに、バレルの内壁に集積し、バレルaがbおよびc、dの位置に旋回するに従ってマス1′は2′より3′、4′の位置に流動する。その流動状態は第1図に示す四個のバレル内の矢印のように、バレル内の空間に接する上層部より順次崩れて円滑に流動する(中略)。第1図の2′のマスが3′と入替わる詳解図は第3図及び第4図の通りである。(中略)このようにマスの上層部の流動更新は繰り返されマスを構成する何れの位置の部分も均等に流動層を循環する。この間流動層内の遊離工作物と研磨材は遠心効果によりタンブルすることなく、従って完壁不断の相互動圧による摩擦流動を行ない、流動層以外の何れの位置の集積マス中の工作物及び研磨材もバレルの内壁に密着して、バレルと共に旋回し、バレルの内壁に沿って摺動することはない。而して流動層の順繰り更新によってその所在位置が流動層中に移入した時に限り工作物と研磨材は流動して表面研磨作用が行われる。」(同欄第一五行ないし第三頁右欄第六行)と記載されている。

右〈1〉は、回転式(自転式)バレル研磨におけるマスに加わる遠心力が重力一Gを超えるに至る臨界回転数が

〈省略〉

であることに徴すると、旋回式バレル研磨では公転の遠心力が重力を上廻るような高速度の公転数で操業しなければならないことを述べているにすぎない。また、〈2〉は、本件発明の旋回式バレル研磨においては、バレルが空間に対して自転せず、回転式(自転式)バレル研磨における重力に相当する力をバレルの高速公転による遠心力で置き換えているため、バレル内のマスのバレル空間に接する上層部が右遠心力によって流動し、この流動層内において工作物の研磨が行われる旨を述べていることに帰し、このマスの挙動、すなわちバレルとマスとの相対運動の態様についての説明は回転式(自転式)バレル研磨におけるマスの挙動と同一である。

そして、本件訂正明細書には、右明細書に開示されたとおりの装置を用いてバレルに公自転比一対マイナス一の高速回転を与えて操業することが説明されているだけであって、要件2の動作をさせるためには、他の特別の装置構成ないし操業条件を設定することを要する旨の説明はない。

そうすると、要件2は、要件1に掲げる装置を用い、正六角柱状又は正八角柱状バレルに工作物と研磨材とを含むマスをバレル内に空間が残るような量装入して、バレルに公自転比一対マイナス一の高速の公自転を与えたとき、他に特別の条件を要せず当然に生じる現象を掲げたものであって、回転式(自転式)バレルによる精密仕上げの場合と実質的に異ならないマスの挙動ないしマスとバレルとの相対運動の態様を掲げたものである。

したがって、一般の機械において、構成が同じであれば、自然法則に従った機械の作用ないし動作も同じであるのと同様に、第二引用例記載のもののバレルを正六角柱状又は正八角柱状バレルで置換した装置を、第二引用例が示しているとおりマスに十分な遠心力が作用するように回転させるとき、バレル内のマスが要件2のとおり挙動することは自然法則による当然の結果である。

そして、本件発明の要件1及び3の旋回式バレル研磨法が当業者にとって推考容易であり、右推考容易な装置を用いた方法におけるバレル内のマスの挙動が要件2のとおりであるからには、その方法の奏する作用効果も自明のものである。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四は争う。本件審決の認定、判断は正当であり、本件審決には原告主張の違法はない。

1  原告は、本件発明を要件1、2及び3に分説し、要件1及び3は第一ないし第三引用例記載のものに基づいて推考容易である旨主張する。

本件発明の要件1及び3については、第二引用例記載のものの備えたバレルが正六角柱状又は正八角柱状でないことを除いて、本件発明と第二引用例記載のものとが同一であることは認める。

しかしながら、本件発明は、特許請求の範囲に記載された全構成要件を一体不可分のものとして結合することにより、初めて本件訂正明細書記載の作用効果を奏するものであるから、構成要件を任意の項目に分離することは、本件発明の本質を誤認するおそれがある。

本件発明において、正四角柱状バレルを用いた場合には、本件発明の唯一最大の特徴たる流動研磨が不可能であり、公知の正六角柱状回転式バレルによる流動研磨も本件発明の流動研磨とは本質的に異なるから、本件発明の流動研磨の要件を考慮することなく、単に右正四角柱状バレルに代えて正六角柱状バレルを採用するというだけで、本件発明の構成が当業者にとって容易に推考することができたものということはできない。ちなみに、公知の回転式バレルに、本件発明の実施例と同様に大きな遠心力を付与すべく高速回転すると、かえって流動層がなくなるのみならず、遂には研磨不能となる。すなわち、旋回式バレル研磨における流動層は、従来の回転式バレルからは想像できない条件の下において整然たる流動層を発生させるもので、本件特許出願前は何びともこれを予測できなかったのみでなく、これを示唆する技術文献もなかったのである。

第二引用例記載のものは、工業的に使用できないので、日本国内のみならず、外国においても使用されていない。その理由は、本件訂正明細書に記載されているように、正四角柱状バレルにおいては、流動研磨による研磨が不可能であり、研磨目的を達成できないからである(第四頁左欄第二二行ないし第三八行)。

原告は、第二引用例は、正四角柱状以外の容器の採用可能性を示唆していると主張する。しかし、第二引用例記載のものの発明者が、正四角柱状バレル以外のいかなる形状の容器を想定したか不明であるが、第二引用例に正四角柱状バレルの実施例のみを記載したところからみると、少なくとも正四角柱状バレルが最良と思っていたことは明らかであり、したがって、第二引用例は正六角柱状又は正八角柱状バレルを示唆したものではない。

また、原告は、正四角柱状バレルに代えて、回転式バレルとしてよく使用されている正六角柱状又は正八角柱状バレルを用いることは容易である旨主張する。

しかしながら、本件特許出願当時、遠心力を用いる旋回式バレル研磨法に用いる装置として知られたものは第二引用例及び第三引用例記載のもの並びにこれに類似する円筒柱状ミルのみであり、このうち第二引用例記載のものは工業的利用は不可能であって実用された例がないこと前述のとおりであり、また、第三引用例記載のもの及びこれに類似する円筒柱状ミルは、別紙図面(四)Fig2が示すように、マスの移動について全然知っていなかった(すなわち、Fig2は研磨機の運転中の図であって、マスの上面は垂直にならなければならないにもかかわらず、ほぼ水平に描かれている。)ものである。

したがって、本件特許出願当時、当業者間においては、遠心力を用いる旋回式バレルによる研磨は不可能なものとされていたから、正四角柱状バレルを正六角柱状又は正八角柱状バレルに代えることを想到することはできなかった。

本件審決は、第二引用例記載のものは、内面が正四角柱状のバレルによる旋回研磨作業であって、本件訂正明細書にこのような研磨法は本件発明の旋回式バレル研磨法に比べ作用効果が格段に劣ることが明記されているとして、第二引用例記載のものに基づく本件発明の容易推考性を否定したが、その判断は当然のことながら、このバレルの置換容易性を否定したものというべきである。

2  回転式バレル研磨法と旋回式バレル研磨法とは自然法則の利用方法を異にする。

すなわち、両者は、共にバレル内の空間と接するマスの上層部のみに所定幅の層をなして移動する部分、すなわち流動層が形成されるが、前者の流動層は、研磨石がタンブリングしつつ流動しており、流動マスに直接加わる遠心力は、実用研磨における通常の回転数では、マスの自重と比較して極めて小さく、事実上無視し得るものであるのに対し、後者は流動マスにその自重より著しく大きな遠心力が加わり、タンブリングのない流動層を形成している点で顕著な差異があり、その結果、前者では数十時間を要するような研磨加工の場合においても、後者では僅か数分ないし十数分で仕上げることができ、また、前者では自重の小さい被加工物は円滑かつ効率的な研磨ができず、マスの自重に影響を与えるような遠心力が大きくなると円滑な流動が困難となり、遂には研磨が不可能となるのに対し、後者では従来不可能視された超小型部品の重研削並びに光沢研磨が可能である等の作用効果の差異を生じるものであって、両者は全然別異の技術的思想である。

原告は、構成が同じであれば自然法則に従った機械の作用ないし動作も同じであると同様に、第二引用例記載のもののバレルを正六角柱状又は正八角柱状バレルで置換した装置を、第二引用例に示しているとおり、マスに十分な遠心力が作用するよう回転させるとき、バレル内のマスが要件2のとおり挙動することは自然法則による当然の結果である旨主張する。

しかしながら、第二引用例記載のもののバレルを正六角柱状又は正八角柱状バレルに置換することは、前述のとおり当業者にとって容易に想到できることではないから、原告の右主張はその前提において誤りである。

また、原告は、本件発明の奏する作用効果は、当業者にとって推考容易な要件1及び3の旋回式バレル研磨法におけるバレル内のマスの挙動が要件2のとおりであるからには、自明な作用効果にすぎない旨主張するが、その主張はその前提において誤りがあること前述のとおりである。

原告主張の自然法則ないしマスの挙動について、本件審決は、まず、「旋回式バレル研磨法と回転式(自転式)バレル研磨法とは研磨法そのものを異にするし、」として、自然法則利用が異なることを明確にし、次に、本件発明の「バレル内装入物の上層部のみを循環流動させ」という事項は、第三引用例における「a smooth flowing caterpillar tread-like movement」とは異なった挙動とされたものであるから、「本件発明におけるバレル内のマスの挙動が、回転式バレル(自転式バレル)におけるマスの動作と同様のものであるということはできず、また、第三引用例記載のものにおけるマスの動作と同様のものであるとすることもできない。」としてマスの挙動について正しく認識し、請求人(原告)の提示した甲号各証は、「本件発明のマスの挙動が回転式バレル研磨におけるマスの動作と同様のものであること、そして第三引用例記載のものにおけるマスの動作と同様であることをそれぞれ立証するための証拠として不適切である。」と結論づけており、本件審決の自然法則の利用に関する認識並びにマスの挙動に関する認識は、共に正確である。

第四  証拠関係(省略)

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(本件審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない甲第二号証の三によれば、本件訂正明細書には、「本件発明は内面が多角柱状のバレルを高速度で旋回し、遠心効果でバレル内装入物(工作物と研磨材の混合物、以下マスと略称)に重圧を加え、同時にバレル内の空気と接するマスの上層部を流動循環せしめ、遊離工作物と研磨材とを常時不離の接触状態に保ちつゝ工作物の全量を研磨材で均等不断にタンブル(ひっくり返り)なき摩擦をして表面研磨する方法に係るもの」(第一頁左欄第一九行ないし右欄第六行)であって、従来の一般バレル研磨方式は、第5図(別紙図面(一)参照)に示すように、「バレルを中心縦軸で水平回転し、バレルの回転方向21に持ち上るマス28の上層部がバレルの回転方向とは逆に、矢印30の方向に辷り落ちて辷り層29を構成し、この辷り層を順繰り循環させて全量のマスを均等円滑に流動させ、この辷り層で遊離状態にある工作物と研磨材とを相互に接触動圧させ、工作物の表面研磨作用を行なうものである。このような遊離体の相互接触と動圧の運動は結局当ったり離れたりの微小なタンブリング(ひっくり返る運動)作用を間歇的に行なう間歇接触であり、遊離体自体の自重による重力に起因して行なわれる運動である。従って工作物と研磨材は常に或る大きさと比重を持っていることが条件となり、条件に満たない軽くて小さい工作物の加工は不可能である。又本発明による連続不離の摩擦研磨と比較すれば、間隙接触による研磨作用は作業時間的研磨効果的に極めて大きな損失を伴なうものである。以上の理由によって回転式バレルでは工作物が小さければ小さい程研磨作用は行なわれず、数十時間を費しても、その研磨量は数μを超えない。」(同欄第一三行ないし第二頁左欄第一三行)、また、「振動式バレルによっても、同様に遊離体自重によるところ大なる動圧加工であるから、小型工作物の研磨は極めて至難である。」(同欄第一四行ないし第一六行)、加えて、「回転式バレルにはその回転数に、振動式バレルにはその振動数と振幅とに自ら実施の範囲に限界があるものでこの限界を超えての能率向上は到底望まれない。」(同欄第一六行ないし第一九行)との知見に基づき、これらの問題点を解決することを技術的課題(目的)として、本件発明の要旨とする構成を採択し(なお、「本発明における高速度とは(中略)通常バレルの旋回軌跡を径Dとし、その旋回速度即ち毎分の公転数Nが

〈省略〉

(Dの単位はメートル)を超える」((同頁右欄第七行ないし第一一行))ものをいう。)、その結果、「本発明による旋回式バレル研磨の研磨能力は、第11図の〈1〉のように他の方式の数十倍に相当する重研削を可能とするばかりでなく、光沢用研磨材による光沢研磨の作業時間を一〇数分の一に短縮することができる。同時に工作物に全量がマスの流動層でのみ均質均等に表面研磨され、バレル内壁とマスとの間にいささかも摩擦作用が生じないので数時間の連続作業でもバレル内室温は四〇度C内外に止まり、バレルの内壁を少しも傷つけない。」(第三頁右欄第二一行ないし第三〇行)という作用効果を奏する旨記載されていることが認められる。

2  ところで、前記本件発明の要旨は、これを要件1「本文並に図面に詳述するように内面が六角又は八角の正多角柱状のバレルの複数個を、主軸を中心とする旋回軌道上の対称位置に等間隔で、バレル又はバレルケースの両端の縦軸を上記の主軸に平行に配置してバレルの各点が常に同方向を維持しながら、即ち空間に対して自転することなく主軸を中心としてマスに有効な遠心力が働くような高速度で旋回するように駆動して、遠心効果を内装入物に与え」、要件2「同時にバレル内の空間と接するバレル内装入物の上層部のみを循環流動させ、この流動層を流動する遊離工作物と研磨材を常時不離の接触状態を保ちつつ工作物の全量を均等不断にタンブリングなき摩擦を行って表面研磨をする」、要件3「高速旋回式バレル研磨法」に分説することができ、右にいう要件1は、主として本件発明の要件3の高速旋回式バレル研磨法を実施する装置を特定し、要件2は、作用面から本件発明の要件1、3の高速旋回式バレル研磨法の構成を限定したもの(その技術的意義の存否は後記5において判断する。)というべきである。

原告は、本件発明の要件1及び3は、第一ないし第三引用例記載のものに基づいて当業者が容易に想到し得た旨主張する。

これに対し、被告は、本件発明は、特許請求の範囲に記載された全構成要件を一体不可分のものとして結合することにより、初めて本件訂正明細書記載の作用効果を奏するものであるから、構成要件を任意の項目に分離することは、本件発明の本質を誤認するおそれがある旨主張する。

しかしながら、いわゆる発明の進歩性を判断するに当たっては、発明の構成の困難性あるいは容易推考性の有無を中心に据えて判断するのが通常であるが、発明の構成要件中に発明の構成自体にかかわる要件と該要件をその作用面から限定する要件とが含まれる場合、まず、後者の要件を切り離し、前者の要件によって規定された固有の構成について検討し、しかる後に後者の要件を前者の要件に結合した全体について検討するという判断過程を経ることは、当該発明の構成要件の組立て方に適合するものであり、これがため発明の本質を誤るおそれはないというべきであるから、被告の右主張は理由がない。

3  ところで、本件発明の要件1及び3については、第二引用例記載のものの備えたバレルが正六角柱状又は正八角柱状でない点を除いて、本件発明と第二引用例記載のものが同一であることは、当事者間に争いがない。すなわち、第二引用例記載のものは、本件発明がその改善を技術的課題とした従来技術である回転式バレル又は振動式バレルによる研磨法とは異なり、本件発明と同じ高速旋回式バレル研磨法に関するものであって、使用されるバレルの形状を除き、複数個のバレルを、主軸を中心とする旋回軌道上の対称位置に等間隔で、かつバレル又はバレルケースの両端の縦軸を右主軸に平行に配置して、バレルの各点が常に同方向に維持しながら、すなわち空間に対して自転することなく主軸を中心としてマスに有効な遠心力が働くような高速度で旋回するように駆動して、遠心効果をバレル内装入物に与える装置を用いた高速旋回式バレル研磨法である点で本件発明と一致するものである。

4  そこで、本件発明の要件1及び3について、本件発明と第二引用例記載のものとの相違点、すなわち、本件発明においては、正六角柱状又は正八角柱状バレルを用いるのに対し、第二引用例記載のもののバレルはこのような形状を備えていない点の容易推考性について判断する。

成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例には、「従来のタンブリング作業においては、普通、被仕上部品の一群を一個のドラム内に、研削性物質と共に入れ、さらに場合によってはこれに水を追加しドラムを閉じた後にドラムを回転して被加工部品と研削性物質の粒子とを遠心力によってドラムの内面に添って部分的に上昇させ、その結果重力によって落下させ、部品と研削性粒子との相互的衝突により突出しているまくれ、鋭利な縁等を摩耗、研削して除去し表面を要求どおりに仕上げていた」(第一欄第五九行ないし第二欄第一〇行)が、「被処理部品の表面より極めて小量な肉を除去せんとする場合においてもドラムを長期間にわたって回転することを要した」(同欄第二八行ないし第三〇行)との知見に基づき、この欠点を改良し、部品の表面を容易にかつ著しく迅速に仕上げることができる擦過、研削、研磨の方法を提供すること等を目的として(第一欄第七行ないし第九行、第一四行ないし第一六行)、前記3認定の構成を採用したものであると記載され、バレルの形状については、その発明の実施例として、回転する主軸4の両端にそれぞれ取り付けた十字状のスパイダ9の各先端個所に、それぞれ一個の正四角柱状の容器10(右容器は本件発明のバレルに相当する。)を、各容器10の両端の回転するシャフト17が主軸4に平行となるよう取り付け、主軸4を中心とする旋回軌道上の対称位置に等間隔に配置したもの(別紙図面(三)参照)が開示されているが、「本発明はその特殊な一実施例によって開示してあり、当該技術の当業者は上記実施例を種々改変して本発明を容易に他の形態において実施することができる」(第四欄第二一行ないし第二五行)と記載され、その特許請求の範囲においては、容器の形状は特に限定されていないことが認められる。

右認定事実によれば、第二引用例記載の発明は、前記1認定の本件発明と同じ従来技術の問題点の改善を目的とするものであり、その実施例に開示された容器(バレル)の形状は本件発明と異なり正四角柱状であるが、その発明の実施に当たっては、バレルの形状を他の形状に改変し得ることをも示唆しているものというべきである。

そして、成立に争いのない甲第七号証によれば、第三引用例記載の発明は、表面研磨のプロセス及び装置に関し、あらゆる種類形状の製品のバリ取り、研磨及びバフ掛けのための斬新で高生産性を有するプロセスの提供等を目的とし(第一欄第一〇行ないし第一三行)、内部のマスに遠心力が働くようにドラム(右ドラムは本件発明のバレルに相当する。)を旋回運動させた、公自転比一対マイナス〇・五、すなわちドラムは公転中、公転の半分の速度で反対方向に自転する旋回式バレル研磨であって(クレイム1参照)、第三引用例には、ドラムの形状について、「断面円形の円筒状ドラムを使用するのが望ましいが、各種の多角形断面のものを選ぶことができる」(第二欄第六行ないし第八行)と記載され、FIG1及び2(別紙図面(四)参照)に実施例として図示された「ドラム15・15は断面円形として示されているが、各種の多角形断面もまた適当であり、ときにはその方が好ましいことがある」(第四欄第二四行ないし第二六行)と記載されていることが認められる。

右認定事実によれば、第三引用例記載のものは、旋回式バレル研磨において、各種の多角形断面のドラム(バレル)を選択することができ、ときにはそのような形状のドラムが円筒状ドラムよりも好ましいことを開示しているというべきである。

また、成立に争いのない甲第六号証によれば、第一引用例記載の発明は、攪拌と微細な研磨とによって、金属材料を美麗にしつや出しするために用いる機構に関し、新規な極めて有効な方法を達成することを目的とし(第一頁第一四行ないし第二一行)、遠心力を働かせて旋回させるものではないが、ケーシング(右ケーシングは本件発明のバレルに相当する。)に公転と自転とを与え、その公自転比を一対プラスXとする旋回式バレル研磨であって、第一引用例にはFig1・2(別紙図面(二)参照)に実施例として正六角柱状のケーシングが開示されており、「これらのケーシングは円筒形又は多角形などの適当な断面形状であってよく、六角形が好適なものとして示されており」(第二頁第二八行ないし第三〇行)と記載されていることが認められる。

右認定事実によれば、第一引用例記載のものは、本件発明や第二引用例及び第三引用例記載のもののように遠心力を働かせてバレルを旋回させる旋回式バレル研磨法ではないが、公自転数を異ならせた一種の旋回式バレル研磨法において、正六角柱状のケーシング(バレル)を用いるものというべきである。

加えて、成立に争いのない甲第八号証(松永正久編「バレル仕上法」誠文堂新光社昭和三四年四月三〇日発行)によれば、本件発明が従来技術とする回転式バレル研磨法において用いるバレルについて、右技術文献には、形状は種々雑多であるが、角柱形は主として水平形バレルに用いられ、その場合の角柱は六ないし八角柱が最も多く用いられている(第一九頁第一〇行ないし下から第一〇行)と記載され、かつ、正六角柱状又は正八角柱状バレルが多数図面又は写真で示されている(例えば、第二〇頁、第二二頁ないし第二七頁、第二九頁等)ことが認められるから、バレルを用いた研磨法においては、従来、正六角柱状又は正八角柱状バレルは周知慣用であったというべきである。

以上の認定事実によれば、本件特許出願当時、当業者は、従来の回転式バレル研磨法のもつ技術上の欠点を改良するため、バレルの形状を除いて本件発明の要件1を備えた装置を用いて、要件3の旋回式バレル研磨を行う方法を開示した第二引用例記載のものにおいて、そのバレルを、前記認定の第一ないし第三引用例の記載ないし示唆に基づき、従来、バレルを用いた研磨法において周知慣用であった正六角柱状又は正八角柱状バレルに代えることは、格別の発明力を要しないで想到し得る程度にすぎないというべきである。

この点に関し、被告が第二引用例記載のものの正四角柱状バレルを正六角柱状又は正八角柱状バレルに代えることができない理由として主張するところは、要するに、本件訂正明細書に記載されているように、正四角柱状バレルにおいては、本件発明の最大の特徴である流動研磨が不能であるというにある。

なるほど、前掲甲第二号証の三によれば、本件訂正明細書の発明の詳細な説明中には、「第12図は、四角柱状のバレル内におけるマスの乱流状態を示す図である。四角柱状のバレルにおいては、対辺距離と対角距離の比が大きい為(正四角形で一対一・四)に槽の旋回に伴うマスの流動が困難になり、波打つことになる。従って第13図に示すように研磨量が著しく少なくなるにも拘らず、第14図に示すように表面あらさが大きくなりマスの乱流による打痕の発生を示している。」(第四頁左欄第二二行ないし第二九行)と記載されていることが認められるが、第二引用例記載のもののバレル内のマスの挙動(運動形態)及び研磨量、工作物の研磨後の表面粗さは本件発明と対比して実質的に差異がないことは、後記5において認定するとおりであるから、本件訂正明細書の右記載を根拠に第二引用例記載のもののバレルを正六角柱状又は正八角柱状バレルに置換することの容易推考性を否定することはできない。

本件審決は、本件訂正明細書の前記発明の詳細な説明に依拠した前判決の理由中の判断に従い、「第二引用例記載のものは内面が正四角柱状のバレルによる旋回研磨作業であって、本件明細書において、内面が正四角柱状のバレルを用いる旋回式バレル研磨は、本件発明の内面が六角又は八角の正多角柱状のバレルを用いる旋回式バレル研磨法に比べ作用効果が格段に劣ることが明記され、さらに前判決においても、このことが支持されている」とした上、「本件発明は第二引用例記載のもの(中略)から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。」と認定、判断した。本件のような特許無効審判の審決に対する取消訴訟は行政事件訴訟法第四条所定の当事者訴訟に属し、右訴訟に準用される同法第三三条第一項の規定によれば、審決を取り消す判決は、「その事件について、(中略)関係行政庁を拘束する。」から、更に審理を行う特許庁審判官は第一次審決を取り消した判決の理由中の判断に拘束され、したがって、審判官が第二次審決において前記判決の理由中の判断に従ってなした認定、判断を違法であるとすることはできない。しかしながら、第二次取消訴訟において、当事者が、第二次審決が認定、判断した論点に係るものではあるが、右認定、判断において審究、説示されていない事項であって、右認定、判断を否定する方向の事実を裏付ける証拠を提出した場合に、裁判所が右証拠による事実認定に基づいて第二次審決の認定、判断を違法とすることは許されてしかるべきであり、前記取消判決の拘束力の法理はこれを妨げるものではないというべきである。本件において、前述のとおり第二引用例記載のもののバレル内のマスの挙動及び研磨量、工作物の研磨後の表面粗さが本件発明と対比して実質的に差異がないことは、原告が本訴に至って提出した証拠によって裏付けられるのであり(後記5参照)、しかも、この点については、本件審決の認定、判断において具体的に審究、説示されていない(このことは、成立に争いのない甲第三号証の六((前判決正本))及び前示本件審決の理由の要点に徴して明らかである。)以上、本件審決の前記認定、判断を誤りとすることは何ら妨げられないというべきである。

また、被告は、第二引用例記載のものは工業的に使用できないので、日本国内のみならず、外国においても使用されていない旨主張するが、第二引用例記載のものが工業的に不適当なものとして使用されなかったことを認めるに足りる証拠は存せず、また、発明の構成の容易推考性は、引用例に記載された技術的思想そのものが発明の構成に対して基因ないし契機となり得るかという見地から判断されるべきことであって、出願後工業的に実施されたか否かが直ちに右判断を左右するものではないから、被告の右主張及びこれを前提とする主張は採用できない。

さらに被告は、第三引用例記載のものはマスの移動について全然知っていなかった旨主張するが、いずれにせよ、第三引用例に、旋回式バレル研磨においてドラムの形状として多角形断面のものを選ぶことができると記載されている以上、当業者が第二引用例記載のもののバレルを正六角柱状又は正八角柱状バレルに代えるにつき第三引用例がこれを示唆するものと認定することは何ら妨げないというべきであって、被告の右主張は採用できない。

5  次に、本件発明の要件2について検討する。

本件発明の要件2「同時にバレル内の空間と接するバレル内装入物の上層部のみを循環流動させ、この流動層を流動する遊離工作物と研磨材を常時不離の接触状態を保ちつつ工作物の全量を均等不断にタンブリングなき摩擦を行って表面研磨をする」は、その内容からみて、バレル内のマスの挙動という作用面から本件発明の要件1、3の研磨法の構成を限定したものであるが、この挙動を行わせるための特別の構成を要件1に付加するものではなく、また、バレルの公転数を具体的に特定するものでもないことが明らかである。

そして、本件発明の要件2におけるバレル内のマスの挙動は、「バレル内の空間と接するバレル内装入物の上層部のみを循環流動させ」るものであるから、上層部以外のマス、例えばバレル内壁に接するマスは、バレルの旋回によって上層部に位置するようになるまでは、バレル内で運動しない、すなわちバレル内壁との摺動、いわゆる底滑りを生じないことを要件とするものであって、バレル回転中マスが自重により滑り落ちる回転式バレル研磨法や第一引用例記載のもののような遠心力を働かせて旋回するものではない旋回式バレル研磨法はもちろんのこと、遠心力を付与されてマスがバレル内壁に押圧された状態で旋回運動をするものであっても、第三引用例記載のもののような、いわば観覧車的な運動をしないものとは、タンブリングも底滑りも生じない点で相違しているものと認められる。したがって、バレル内のマスの挙動は、回転式バレルと本件発明の旋回式バレルとの間に差異がないとする原告の主張は採用できない。

しかしながら、前記3及び4認定のとおり、第二引用例記載のものは、バレルの形状を除いて本件発明の要件1及び3を具備するものであり、本件発明と技術的に最も近い旋回式バレル研磨法であるところ、第二引用例記載のものにおけるバレル内のマスの挙動は本件発明と同一であって、その間に実質的な差異を認めることはできない。

すなわち、第二引用例記載のものは、前述のとおりバレル内のマスに遠心力を付与して観覧車方式の旋回運動を行うものであり、本件発明のバレル内のマスの挙動と異なるところがない。もっとも、第二引用例記載のものは本件発明のバレルとバレルの形状を異にするが、遠心力を付与して観覧車方式の旋回運動をさせたときのバレル内のマスの挙動は、その構成からみて、バレルの旋回速度(公転数)、バレルの内面形状、大きさ、内壁の摩擦係数、工作物及び研磨材のそれぞれの大きさ、形状、摩擦係数、比重、装入量(バレル内の容積に占める割合)、これらの混合比等種々の要因によって決まるものであり、バレルの内面形状と旋回速度がマスの挙動に影響を与えることは確実であるが、これのみによってマスの挙動が定まるものではない。そして、成立に争いのない甲第一二号証(株式会社諏訪精工舎((現商号 セイコーエプソン株式会社))藤田明作成「遠心バレル研磨の高速度撮影フィルム実験観察報告書」)によれば「実施機株式会社諏訪精工舎製SB型遠心バレル研磨機、使用容器、円筒、四角筒、六角筒及び八角筒バレル、容器の容積〇・四ι、容器の内面 ゴムライニング、鏡面ステンレス、容器の公転半径 一一〇mm、容器の自公転比 n/N=―1、容器の公転数 三〇〇rpm、三五〇rpm、マスに加わる遠心力 一一・〇七G(公転数三〇〇rpmの場合)、一五・〇六G(公転数三五〇rpmの場合)、使用研磨石 球形研磨石LB―4(直径四mm)、不定形球状研磨石3p―12、研磨石装入量容器容積の五〇%」の条件でバレル内のマスの挙動を、nacハイスピードカメラ モデル16HDにより毎秒五、〇〇〇コマの高速度で撮影した結果、円筒柱状バレルには底滑りがみられるが、正四角柱状と正六角柱状、正八角柱状バレルとの比較では、全体のマスの流れには格別の差異は存せず、いずれも底滑りを生じることなくバレル内装入物の上層部のみをキャタピラ状に流動巡回させることが認められる。昭和五二年一月、被告株式会社チップトン製SVA(1―2)8型高速旋回式バレル研磨機に円筒柱状及び正六角柱状バレルを取り付け、該容器に研磨石AS―5(白色・五~七ミリメートル径の球形)八〇%とCS―5(青色・五~七ミリメートル径の球形)二〇%を混合したものを入れて所定の条件で旋回した場合における右容器内マスの流動状況を高速度撮影したフィルムの連続コマ中から抽出した写真であることについて争いのない乙第六号証及び成立に争いのない第七号証(被告会社高木潔作成の説明書)によれば、右説明書は、右のとおり円筒柱状バレルと正六角柱状バレルにおけるバレル内のマスの挙動を高速度撮影した結果を対比したものと認められるから、右認定を左右するものではなく、ほかに正四角柱状と正六角柱状及び正八角柱状バレルとの間にマスの流れに差異があることを認めるに足りる証拠はない。

さらに、バレルの内面形状の相違が研磨効率(単位時間の研磨量)や工作物の研磨後の表面粗さに及ぼす影響について検討すると、成立に争いのない甲第一四号証の一ないし三(長野県精密工業試験場長巣山博美作成の試験成績書)によれば、株式会社諏訪精工舎製SB型及び原告会社製TNB08型遠心バレル研磨機に、円筒柱状、正四角柱状、正六角柱状、正八角柱状バレル(容量〇・三九ι・ゴムライニング張り)を一個ずつ取り付け、各バレルごとに炭素鋼(S45C)試験片と研磨石SP―10(四三〇g、一九五ml)とを混ぜたマスに研磨剤GC一五〇〇(二〇g)、水(一九五ml)、洗剤SPM(二g、濃度一%)を添加し、公自転回転数三五〇及び三〇〇rpm(SB型の場合)、二三〇及び一八〇rpm(TNB型の場合)として一時間研磨した後の研磨量を測定した結果(以上は甲第一四号証の一試験成績書)、及び前記SB型遠心バレル研磨機に前記各バレルを一個ずつ取り付け、二種の炭素鋼(S45C、SK4)試験片と二種の研磨石(SP―10四三〇g、一九五ml及び銅ボール〇・二mmφ一〇四〇g 一九五ml)とを混ぜた四通りのマスに研磨材(SP―10使用時はGC一五〇〇を二〇g、銅ボール使用時はポリダイヤを二〇g)、水(一九五ml)、洗剤(SP―10使用時はSPM二g、濃度一%、銅ボール使用時はラスターオールA二g、濃度一%)を添加し、公自転回転数三五〇rpmとして一時間研磨した後の研磨量(以上は甲第一四号証の三試験成績書)並びに研磨前後の前記二種の試験片の表面粗さ(以上は甲第一四号証の二試験成績書)を測定した結果、いずれの場合でも使用したバレルの内面形状が円筒柱状、正四角柱状、正六角柱状、正八角柱状のいずれであるかによって研磨量や工作物の研磨後の表面粗さに格別顕著な差異は存しないことが認められる。そして、このことは、成立に争いのない甲第一五号証及び第一七号証(千葉工業大学教授遠山正俊作成の「実験報告書」)、甲第一六号証(株式会社諏訪精工舎藤田明作成「遠心バレル研磨実験報告書」)により、前記試験成績書(甲第一四号証の一ないし三)記載の実験と同一又は類似の条件により実験した結果を記載したこれら報告書の実験結果は前記試験成績書の記載とほぼ同一であることが認められることからも裏付けられる。成立に争いのない乙第五号証(被告会社高木潔作成の実験報告書)によれば、右報告書には、円筒柱状バレルと正六角柱状バレルとを使用した実験結果を対比すると、後者は研磨量が優れ、表面粗さについても有意性があると記載されていることが認められるが、前掲甲号各証に照らし、その実験結果の正確性には疑問があり、仮に正確性を持つものとしても、正四角柱状バレルと対比したものではないから、これをもって本件発明と第二引用例記載のものとの作用効果の違いを証することはできない。

そして、右認定事実に照らすと、前記4において摘示した本件訂正明細書中の第12図ないし第14図に関する記載(第四頁左欄第二二行ないし第二九行)は、十分な技術的裏付けを欠くものであり、その記載に誤りがないとすれば、明細書に記載された条件に加えて他の特別の条件を付加したことに基づくものとみざるを得ない。

そうであれば、第二引用例記載のものの備えた正四角柱状バレルと本件発明における正六角柱状又は正八角柱状バレルとの間には、バレル内のマスの挙動には実質的な差異はなく、また、研磨量や研磨後の表面粗さにも格別顕著な差異がないことが明らかであり、両者の作用又は効果に差異が認められるとしても、以上の認定事実に照らし、第二引用例記載のもののバレルの形状を、第一ないし第三引用例の記載又は示唆に基づき正六角柱状又は正八角柱状バレルに置換することにより当然達成し得る範囲を出るものではない。

被告は、回転式バレル研磨法と旋回式バレル研磨法とは自然法則の利用方法を異にする旨主張するが、第二引用例記載のものはバレルの形状を除いて本件発明と同じ旋回式バレル研磨法であるから、回転式バレル研磨法との自然法則の利用方法の違いを主張しても前記認定に何ら影響するものではない。

したがって、本件発明の要件2による作用面からの本件発明の要件1、3の研磨法の構成の限定には格別の技術的意義があるということはできない。

6  以上のとおりであって、本件発明の要件1を備えた装置を用いて要件3の旋回式バレル研磨を行う方法を開示した第二引用例記載のものにおいて、そのバレルを、第一ないし第三引用例の記載ないし示唆に基づき、従来、バレルを用いた研磨法において周知慣用であった正六角柱状又は正八角柱状バレルに代えることは、格別の発明力を要しないで想到し得る程度のことであり、要件2による作用面からの本件発明の要件1、3の研磨法の構成の限定は、第二引用例記載のもののバレル内のマスの挙動と本件発明のバレル内のマスの挙動に格別の差異がなく、研磨効果においても顕著な差異が生じ得ない以上、格別の技術的意義がないから、結局、本件発明は、当業者において第一ないし第三引用例記載のものに基づいて、容易に想到し得たものというべきである。

しかるに、本件審決が本件発明は第一ないし第三引用例を含め原告(請求人)が審判手続において提出した前記審決の理由の要点に摘示した甲号各証に記載された技術内容に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとしたのは誤りであって、本件審決は違法として取消しを免れない。

三  よって、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用及び原告補助参加人らの参加によって生じた費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

別紙図面 (一)

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別紙図面 (二)

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別紙図面 (三)

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別紙図面 (四)

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